Sayama flat

所在地:  埼玉県狭山市
主用途:  賃貸マンション
戸数:  30室
竣工:  2008年1月
延床面積:  2227.24m2
担当:  畠中 啓佑
施工:  ミヤマグッドホーム
事業主:  ユナイテッド不動産
撮影:  太田 拓実

郊外におけるリノベーション

新宿駅から電車で約50分のところ、首都圏郊外に位置する狭山市駅から徒歩10分ほどのところにこの建物はある。我々はこの建物を社宅から賃貸マンションにコンバージョンした。このリノベーションを期にこの建物は改めて30室の入居者を集めなければなかった。ただ、狭山は他の郊外と同様、少子高齢化が顕著で、古い建物である上、家族向けとなると、そのままきれいにするだけではとても30室は埋まらない。それを危惧した事業主が我々に相談してきたことからこのプロジェクトは始まった。ただ、郊外は都心と異なり、お金をかけてデザインをよくしても、その分で賃料アップは期待できず、原状回復と同額で改修をしてほしいというとんでもない依頼だった。しかし、地域の相場を見る限り、その言い分も納得せざるを得ない。後は当然我々がその条件でその仕事をうけるかということになる。ただ、もし、可能であればこれは全国区の同種の問題解決になると考え、実行できる条件を模索し提示したのが以下のものだった。1)一切図面をひかない。2)内容確認を行わせない。3)4室だけ選考して実施する。事業主も事業主であれば、我々も我々で非常識な条件を提示したのだが、それをなんなく事業主は受け入れ、現場に向かうことになった。

「引く」デザイン

結果、この解体、つまり「引く」デザインが誕生した。ただ、最初から、引くだけで完結することを想定していたわけではない。自分の家だとしたら100万円もあればそこそこ楽しめる場所が出来ると考えていただけで、現場に行っても特に何をするかは決まっていなかった。とにかく、既存を最大限に利用し魅力ある空間を作るため、注意深く、現調を兼ね自ら解体し始めたのだった。解体を重ねるうちに、見慣れた和洋折衷のLDKプランが少しずつ別の見え方を呈してくるのを我々は現場で感じた。今まで一塊だったものたちが、一つ一つのパーツに分けて認識できるようになり、徐々にそれらを素材と捕らえられるようになってきた。どれも今までであれば真っ先に解体撤去されるものしかない中、取捨選択をしているうちに目がおかしくなってきたのか、徐々に襖や障子、年代物のキッチンコンロ、はがされた壁紙跡、しまいにはボード下に隠されていた、チョークの計算式までもが、我々にとっていとおしい存在になり、この時点で初めて「引く」だけのデザインを意識し始めたのだ。また、引いた後に残される、選択されたもの同士が距離を置いて関係を結び始める。既存の中には複数のパラメータが含まれており、その選択のしかたによって空間の装いが変わる。このことに気付いた時、我々の中で「引く」ことは、「足す」こと十分にリノベーションとなりえることを実感し、これこそ、このプロジェクトにおいて必要とされるデザインであり「造り方」と考えたのだ。

新しい不動産の試みとして

このsayama flatは入居後、内装に自ら手を加えてよいことになっている。もちろん、各々、事前に事業主に対し確認を取ることにはなってはいるが、原状回復が原則となっている日本において、とても稀な事例である。ただ、この計画は引くことのみで再構築された改修であり、いわば30年の間に付いた無駄な贅肉をそぎ落とし、今必要とされる本来の骨格をとり戻したのだ。したがって、入居者に十分なしつらえを提供してはいない。ただ、30年で生まれた需要と供給の歪みを矯正し、この先数十年のシナリオを描くためにリセットされたのだ。したがって、入居者自身が楽しみながら必要に応じて手を加えることは事業主としては喜ばしいことである。しかし、当然、不動産的にはリスクも高い。ただ、この先、人口も減り、資金力なく、老朽化してゆくことが予想されるこの種の賃貸のあり方を考えたとき、この先、数十年のシナリオを入居者にゆだねることは十分一つの選択肢となりうる。また、多くのメディアでインテリアや建築を取り上げることが多くなった現在、建築もファッションと同様、日常化し、一般の意識も高くなっている。この機を利用し、原状回復という縛りを少しずつ解きほぐし、不足を入居者自らに補わせることを考えることは事業主にとっても、入居者にとっても互い幸せなことである。エンドからエンドに売られるフリーマーケットに置かれる服もいまやなかなかなものが並ぶ時代。インテリアもエンドからエンドにという図式はそう難しい話ではない。実際、このsayama flatで入居者のお部屋を数室覗かせてもらう機会があったが、個々に色を塗ったり、壁を作ったり、楽しそうにインテリアを作っている様を見て、都心で原状回復を条件に狭い家を借りる私にとって、その光景は非常にうらやましく思えた。また、このように引渡し後の内覧をこのように素直に楽しめる機会もそうはない。勝手な話だが、たいてい、入居後というのは想定外なことが繰り広げられており、再度、訪ねたい気になかなかならない。しかし、この計画は既存を自ら受け入れ、そして、市場に戻し、その至らなさをその市場にて補わせる行為で、一度足りと長期的に強い像をそこで想像させない動的な感覚を持つプロジェクトであり、不思議と少々の変化には動じない懐の広さがある。

豊かなる衰退

先にも述べたとおり、日本もこれからより少子高齢化に向かい、国自体の国力が弱まり、緩やかに衰退してゆく。そして、あらゆるところでスペースが余り、その先のシナリオを我々自ら描かねばならなくなる。今までのようなドラスティックに街を変えるスクラップアンドビルド的な行為ではなく、豊かな衰退を描かねばならない。そのためには既に、あるものを取捨選択しながら、新しい街を作る必要があり、この計画のように「引く」素材をチョイスし、再構成する行為が今後の日本の建築においてスケールや対象、趣向などを変え、大事な行為となってくるであろう。

Award

bauhaus award 2008

Press

BAWELT 25_8

Interiors Spring/Summer 2008

Lab_81001

NikkeiArchitecture March 2008

PasajesDiseno No03

Sankei Express 15/07/2008

SankeiShinbun 17/07/2008

Shinkenchiku AUG2008

rematype001

(domus 918)

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